2017/10/10

意識を今その瞬間に留め置く力を養成するためにコーチはどうしたらいいのか?


これは、大学のコーチング論で使うスライドの一枚。

競技スポーツに打ち込めば打ち込むほど、
勝ちたくなればなるほど、
意識は「まだ来ぬ未来」や「通り過ぎた過去」や「他者」へ飛んでいってしまい、
意識を「今その瞬間」に留め置くことが難しくなる。
ということを簡単にモデルにしたもの。

自分にコントロールできないこの3つへ意識が吹っ飛ぶと不安は増大し自信は低下する。
結果的にパフォーマンスは悪くなる。
「練習で力は付いたのに試合で発揮できなかった」なんてことになる。

これはプレイヤーにとってだけでなくコーチにとっても同じこと。

だからチームを指揮するコーチには、
自分自身の意識を今その瞬間に留め置く力に加えて、
プレイヤーの意識の居場所を見極める力や、
プレイヤーの吹っ飛んだ意識を今その瞬間に戻すことを支援するスキルが必要になる。

「試合は練習のように、練習は試合のように」という言葉があるが、
試合ではどうしても練習の何倍も勝敗や成否が気になり、
意識が吹っ飛んでしまうことが多い。
「あがり」とか「不安」とか「緊張」の類は、
自分にコントロールできないことに意識が吹っ飛んでいくことによって生じる心身の状態。

「いつも通り!」は、言葉で言うほど簡単なことではなく、
どんなレベルのプレイヤーにとっても、何よりも難しいことの一つなんだと思う。

だからこそ、
試合で今その瞬間に意識を留め置くためには、
練習で今その瞬間に意識を留め置くことを訓練するしかない。
ということになる。

全く違った話だが、
「エアコンの効いた快適な室内環境で育った子どもは体温調整の機能が育たない」
と言われる。
それは「温度変化という刺激」を与えないから、それに対する「適応」が発生しなかったということ。結果的に暑ければ体温が上がり、寒ければ体温が下がる変温動物のようになってしまう。

言い換えると、
「環境変化という刺激」が結果的に「恒常性という適応」を生み出すということ。
逆説的だが「変化」が「恒常」を生み出す。
「ストレスを取り除く」のではなく「ストレスをかけることで耐性を高める」方向性。

同じように考えると、
「結果が気にならない・成否が気にならない快適な練習環境で育った子供は、意識を今その瞬間に留め置く機能が育たない」
って論理が成立するんじゃないだろうか。

言い換えると、
「常に意識が吹っ飛んでしまうような刺激」が結果的に「意識を今その瞬間に留め置くという適応」を生み出すということ。
「ストレスを取り除く」のではなく「ストレスをかけることで耐性を高める」方向性。

これを昔は「バイオレンス」という非合法な手段を用いてコーチはやっていた。
「殴られるという恐怖」は「未来に対する不安」や「過去の失敗」や「コーチの視線」に意識を吹き飛ばす刺激となるが、その刺激が続くことによって「未来のことなんて考えてもしたがない」「失敗した過去を振り返っても仕方がない」「コーチの視線を気にしてたって仕方がない」って一種の諦めが生まれ、結果的に「どんな状況でも意識を今その瞬間に留め置く力」が育つ。

そうやって「非合法な調教」に耐え生き残ることによって無理やり意識を今その瞬間に留め置く力を育てられたプレイヤーは、試合においても意識を今その瞬間に留め置くことができるようになり、結果的に「自分にできることだけに意識を向けられる『メンタルが強い』プレイヤー」となっていった。
そんな時代だった。
そんなことが当たり前の時代だった。

時代は変わった。
でも試合時の不安や緊張は変わらない。

新体操や体操の世界で行われるいわゆる「通し練習」のように、「失敗が許されない」「成功しないと終わらない」といった設定によって、試合と同じ緊張状態を練習の中に作り出していく方法もあるだろう。

しかし、為末氏が「成長は誰の責任か」という記事の中で述べているように、
「圧力をかけて成長させる方法」は今後どんどん難しくなるのだろう。
たとえそれが「叱咤激励」というものであっても。
圧力をかける側の想いよりも圧力を受ける側の主観で全てが評価される時代。

ではコーチはどうしたらいいのか?

練習では意識を今その瞬間から吹き飛ばす敵となり
試合では意識を今その瞬間に留め置く味方となる

でもこれじゃ「いつも通り」にならない?……

答えを探しながら
今日もコートでプレイヤーと関わる

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